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ナビントッシュ

彼は「一人で来たの?」とか、「どこから来たの?」とか、絶対聞かれる質問ベスト3を聞かなかった。慣れているのだと思った。もしくは同類っぽい。

「木彫り、どう?」

「うん、私絵を描いてるから興味あるよ。でも彫刻はできないんだ。」

「なんでできないの?」

「だってさ、彫刻って削っちゃったらおしまいでしょ。そういう一発勝負系苦手なんだよね。」

「いや、ちょっとずつ削っていけばいいから、平気だよ。まあ、とりかえしがつかない場合もあるけどね。」

「だよねえ。」

彼は彫っている手を止めて、すぐ横に置いてあった小さな籐の箱を私に見せた。中には黒い木で彫ってある木彫りのアイヌのおじいさんのキーホルダーがいっぱい入っていた。

「僕もね、教わってるんだ。ここに住み込んでここの店のおじさんに木彫りを習ってるんだけどね、まだまだなんだよね。えっと、これ。」そう言って彼はひとつ、木彫りのおじいさんを取り出した。「これは僕が教わってるこの店のおじさんが彫ったやつなんだ。で、これが。」そう言って、また別の木彫りのおじいさんを箱からつまみ上げた。「これは僕が一番最初に彫ったやつなんだ。もうすっごいへたくそで汚い。見るとすごい嫌だよ。」

私は両方の木彫りのおじいさんを手のひらに乗せてじっくり見てみた。確かに、彼が作った方が文字通り荒削りである。

「なるほど・・・。でもこれ、ちっちゃいから特に大変そうだよ?」

「うん、だから合間にこういのも作ってるんだ。」そう言って今まさに彫っていた木を見せてくれた。こっちはもっと大きくて、白い木片だ。一番上に「風」と途中まで彫ってある。

「これはさ、お土産じゃなくて、母親が店をやってるんで、それの表札にどうかと思って店の名前を彫ってるんだ。できたら実家に渡しに行こうかなと思って。」

じっくり手に取ってみさせてもらったけど、とても綺麗に風という字が彫られている。

「これは活字を拡大してトレースしたの?」

「ううん、下書きはトレースとかしないで自分で鉛筆で書いてるんだ。」

「へえ~!すごいね!」ほんとにすごい。すごく上手だ。

それからひとしきり彼は彫り方や彫刻刀の選び方や、彫った後沈むまで水から煮ることなんかを説明してくれた。

「住み込みって、ここにずっと住んでるの?」

「うん、2階にね、部屋があってそこを借りてるんだ。でも夏だけだけどね。冬はここ閉めちゃうから。寒すぎて観光客もそんなに来ないしね。」

「じゃあ冬はどうしてるの?」

「冬はスキー場に言って仕事するんだ。いくらでも仕事あるからね。道内のでもいいし、本州まで降りて長野とか行けばバイト料がいいんだ。スキー場でも住み込みだからそんなに使わないし、結構貯金できる。今もその時貯めたお金でやってけてるんだ。」

「はあ~なるほど。」確かに、雪が降ったら全く違う世界になる所なのだ。仕事や生活ががらっと変わるのは当たり前だ。でも雪国に住んだことがないので実感したことがなかった。

「ところで、何で来てるの?バイク?には見えないけど。」

「あ、車。ここ来るまでに初めてダート通って来て、すごい楽しかったよ。」

「じゃあさ、僕午後から出られるから、僕の車で湿原通って海まで行こうか?いつも流木を拾いに行く所があるんだ。良いダートルート、あるよ。ここのパーキングにそのまま車停めておいて平気だから。」

「ほんと?おもしろそうだね、行く!」

「じゃあ、12時にもう一回ここ来て。僕、ナビントッシュ。」

「私ヒロコ。じゃ、12時ね。」私はそれまで、他のお店を見ながら時間をつぶすことにした。

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