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ほうれん草の味噌汁と駅長

私は文ちゃんと夜中まで話しこんだ。後の部屋にいた2人は先に寝てしまった。文ちゃんももちろん次の日仕事があるのだけど、ついつい旅の話で盛り上がってしまった。私も文ちゃんの話を聞いているのはとても楽しかった。

「ところで、ヒロコは今日はどこから出発したの?」文ちゃんが聞いた。

「納沙布から。鈴木食堂って知ってる?あそこ。」

「納沙布!いくら車だからってずいぶん走ったねえ!一日の距離じゃないでしょー!なんでまたそんなに走ったの?!」

「いやあ・・・なんでかな?そう言われても自分でもわからないんだけど、とにかく前へ前へ進んじゃうんだよね。途中で観光名所とか、もっと止まって見てみてもいいと思うんだけど、なんか、走り進んじゃうんだよね。そしたらここまで来ちゃったんだよね。」

「うん、その、前に前に進んじゃうっての、気持ちわかるよ。説明できないけどさ、なんかすごいよくわかるよ。」

人間が、ずっと昔もアフリカからどんどん歩いて移動してきて、世界中に広がっていったのは、とにかく前に進みたいと思う人間と、定住して落ち着きたいと思う人間がいたからだと思う。私は間違いなく後者だ。定住するよりも、違う所に行きたい。そしてそこを見知ったら、また違う所へ、出かけて行きたくなるのだ。理由なんかない。ただ、知らない新しい場所を目指すのが楽しい。こうやって車で楽してても、進んでいる!っていう感覚がすごく楽しいのだ。もちろん、文ちゃんみたいに自転車ですべて自分の力で進んでいたら、充実感はケタ違いだろうけど。

私たちは途中からお酒を飲みながら、すっかり意気投合して、いつかインドに行ってみたいねえなんて話で盛り上がった。また、私が道内に入ってすぐに警察に家出だと思われた話をしたら、文ちゃんは笑って言った。

「それは、ちょうど何かあったんだよ。ほんとに家出とか、捜索願いが出てたりしてさ。」

「な~るほど~!そうだよね、じゃなきゃそんなヒマじゃないよね。」

「あのね、何かやって逃げてる人で、罪悪感とか自殺願望がある人はわりと北に逃げるんだって。でそういうの何にもなくてただ逃げてる人は南に行くんだってさ。」

「へえ~?!ほんと?」

「いや、聞いた話の傾向ね。」

「でもなんとなくわかる気もするよね。」

「そんな道の駅とかで寝てたりしたんだ。」

「そうだね、道内ではライダーハウスがあるから最近は泊まってるけど、四国では毎日道の駅だったよ。ここは今日寝るのにいいかな~とか、あ、ここはやだなとか感覚で決めてさ。大体コンビニで何か食べて。」

「もしかして今日もコンビニだった?」

「うん、道内ではほとんどおでんだけどね。あったかくておいしいから~。」

すると文ちゃんがいきなり立ち上がった。「それじゃ、おいしい、いい食べ物作ってあげるよ。」

「いい食べ物?ってなに?」

「今日畑で採れたほうれん草の味噌汁。」そう言うと文ちゃんは廊下に出た。私も後をついて行くと、廊下の洗面台の横のテーブルに携帯用コンロが置いてあった。文ちゃんは慣れた手つきでほうれん草を洗って切り、なべで煮始めた。

「ここって自炊なの?これ使っていい共同台所なの?」

「違うよ。これは俺のマイコンロ。自転車でいつもこれ持って旅してるんだ。なべ一個あるとラーメンとか色々できるからね。」

そんなことを話しているうちにほうれん草が煮えてきたので、文ちゃんは味噌を入れて味噌汁を完成させてお椀に入れてくれた。私はほうれん草の味噌汁というよりは、ほうれん草の味噌煮みたいなお椀を見て感動した。だって新鮮野菜は久しぶりなのだ。食べてみるとほうれん草がやわらかくてすっごくおいしかった。でもあんまりたっぷり入っているのでほうれん草だけでものすごいお腹いっぱいになった。

「明日は人参を収穫するからさ、また宝来においでよ。そしたら俺が採った人参ごちそうするよ。」

「わかった。じゃあなるべく遠くまで行かないでここに帰ってこられるようにするよ。」

そして私たちはお互い翌日のことを考えて、いい加減寝ることにした。私はすっかり酔っ払っていい気分で自分の部屋に戻るとすぐにぐうぐう寝てしまった。

宝来出発

翌朝起きると、文ちゃん達はもう仕事に出ていて、いなかった。私は荷物をまとめるとおばあさんにあいさつに行った。おばあさんはなんだか奥の広い畳の部屋でちゃぶ台を囲んで座っていた。もう一人、いかにも若そうな男の子が一緒に座っている。私が出かける旨とお礼を言うと、おばあさんは私にじゃあ気をつけて、と言って早々にまた自分の話に戻っていった。なんだか、その若い男の子にお説教してるみたいだったが、その男の子は全く無表情で、でもすごい世の中のすべてにおびえているみたいで、妙な感じだった。ほんとに何かから逃げて北海道まで来た若者をカウンセリングしてるみたいだ、と思った。

ナイタイ高原

そろそろ山も走ってみてもいいかな~と思い、ナイタイ高原に行ってみることにした。ここならそんなに遠くないから夜には宝来に戻れるかもしれない。でも富良野からまっすぐな道がないので、上か下にぐるっと回って行かなければならない。

どうも天気の良くない日が続いていて、この日もどんより曇っていた。曇っているととても肌寒い。山なので上の方に行くにつれ段々霧まで出てくる始末。でも道路の両側に広がる緑はとってもきれいでいかにも高原といった感じだ。この高原の上にある牧場に行ってみることにした。牧場に到着する前から、「若者よ!酪農をやってみないか!」というような看板が目についた。ほんとに、仕事がいっぱいあるように見える。それとも人がいないのか。

駅長さん

牧場に着くと、とても広い駐車場になっていて、そこに車を停めて牧場に降りられるようになっていた。私は車を停めてまず駐車場内にあるトイレに入った。そして車に荷物を取りに行くと、やはり駐車場にいた夫婦が話かけてきた。

「この車**ナンバーだけど、君の車?どこから来たの?」

「はい、私です。横浜からです。」するとおじさんが聞いてきた。見た感じ私の親くらいの年齢だろうか。

「横浜からって、どこからのフェリーに乗ったの?」

「大間です。なるべく陸路で来たかったので、東北自動車道を走って来ました。」

「ええ~!!」夫婦2人揃ってものすごいびっくりされていた。「横浜って、でも車のナンバーは**だけど。」

「あ、それは実家なんです。実家の車で。」

「場所はどこ?何駅?」

「@@線の&&&駅です。ご存知ないと思いますけど。」

「いや、わかりますよ。実は私、新宿駅の駅長なんです。@@線なら新宿から出てますよね。」

今度は私がびっくりする番だった。だって駅長って言ってもただの駅長じゃないのだ。あの巨大駅、新宿の駅長なのだ!それってもしかしてすごい人じゃない?

「今、遅い夏休みを取って妻と2人で旅行に来たんですけどね、あ、もちろん私たちはレンタカーですよ。飛行機で来たから。それにしても、ずっと一人で車で走って来るなんて・・・。私たちにも娘がいますけど、女の子で車で一人旅なんて・・・。」もうおばさんの方は絶句されていた。そりゃ、自分の娘がもし一人で北海道まで車で行きたいなんて言ったら普通の親は反対するのだろう。私の親は結構免疫ができたというか、あきらめているところがあると思う。

「すごいですよ、いやあ~、気をつけて、がんばってね。いやあ~それにしても・・・。」おじさんは最後まで驚きながらがんばってと何回も言ってくれた。私は他のライダー達や文ちゃんともう出会っていたので、自分のやっていることをすごいと思わなくなっていた。だって私は車でほんとに楽に走っているのだ。でも新宿駅の駅長さんなんてなかなか会える機会はなさそうだから、ちょっとうれしかった。旅って出会いだ。

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コメント

やっほ〜。ゆきだよん♪
北海道の旅すてきだね!わたしは栃木から下はものすごい旅して、
何十日も車やテントの生活をしたり(強要されたり?)したけど、
まだ北は旅してないからいつか絶対旅したい〜!

レイは昨日から人生初の発熱をして、今も40度近くあるの。
育児はたいへんだー、と改めて感じてます。

お互い子育てしながらでも少しずつ旅していきたいね!

投稿: yuki | 2006年10月 4日 (水) 20時23分

おお~ユキちゃん遊びに来てくれてありがとう~!
なに~レイくん熱出してるの~!しかも40度!大丈夫~?この前は元気だったのにねえ。うちもあの後ラムジィが風邪引いて鼻たれだったけど、もう平気みたい。レイくんも早く良くなるといいね。ほんとに子育てって大変だよね。次から次へと・・・って感じ?
うん、まだまだ旅したいけど、そろそろ大人にキャンピングカーとかでもいいよねえ。憧れだわあ。でもあの野宿とかの「今晩どうしよう?」ってアウトドア感がいいんだよね。ははは。色々行きたいねえ~!そう言えばユキちゃんと旅行ってしたことないね?付き合い長いのに~!今度スーパー銭湯でも行こうか~!まず手始めに(^O^)

投稿: ヒロコ | 2006年10月 5日 (木) 00時18分

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