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モランを乗り越えて

さて、なんとか起き上がれるようになって洗面所に行き、鏡を見て驚いた。鼻が腫れ上がっていたのだ。そりゃそうだ。ぶつけただけだってタンコブができる。

私はじ~っと鏡に映っている自分の顔を見た。大きく腫れた鼻が座っている顔は、まるで冬になるとムーミン谷にやってくるモランみたいだった。

鼻は重い感じはするけど、もうそんなに痛くない。

回診で先生が病室に来て聞いた。

「おい、大丈夫か~?ごはん全然食べてないんだって?」

食べてないも何も、痛くて寝てたんだから、食べられる状態じゃなかっただけだ。

「今日は食べろよ、なっ。」先生は慌ただしく行ってしまった。

この意味は後でわかった。同じ手術で私より少し先に入院していた男の子が近くの部屋にいたので、私はよくそこに遊びに行っていた。入院患者には若い人がほとんどいなくて、私とその子だけが同年代だった。

「だって僕、手術の次の日の朝ごはんからちゃんと食べたよ。」

「ええ~~!?あんな痛くて、どうやって物を食べれんの?!私なんてベッドから起き上がるのもできなかったよ~!」

「だって鼻痛くても腹減るじゃん。」

う~むむむ。こういう前例がいるから私が一日何も食べなくて驚かれるのだ。

とても天気の良い真夏日が続き、私はぼちぼち散歩なんかしてみたが、丸二日間寝ていたので足がすっかりなまってしまい、階段を上り下りするだけですっごく疲れるようになっていた。たった二日歩かなかっただけで、こんなにすぐダメになるもんなんだ~とか考えながら、なるべく歩くようにしようと思った。体は元気なのだし。

何日かして、抜糸をするので診察室に行った。抜糸と言っても縫ったわけじゃないから、取る糸はない。詰めてある脱脂綿を取るのだ。

「はい、取るよ~。」と言ったが早いか、先生は思いっきり鼻の中の脱脂綿をピンセットで抜いた。本当に、バリッ!!!と音がした。これがまた、すんごい痛かった。ちょっと待って、これもう片っぽ?と思っている間もなく、すぐに左のもバリッ!!!と取って下さった。

「はい、おしまい~。」お、おしまいってあ~た・・・。明るい先生なのはいいんだけど・・・。

クラクラしながら診察室を出て、部屋にたどり着く前にまず廊下の椅子にへたりこんだ。い、痛い・・・。こりゃ痛い・・・。もしかしたら手術より痛いんじゃないかと思うくらいだ。でも、この瞬間から変化はもうやってきた。

ぶわぁっと空気が鼻から勢い良く流れ込んで来たのだ。いつもは鼻は詰まっていて空気なんて入ってこない。なのに、脱脂綿を抜いた途端、夏の生暖かい空気が一気にやってきた。

な、なんだこりゃ!

がんばって一所懸命吸い込まなくても空気が入って来る!しかも・・・その空気は匂いがした。

その時から、私はあふれる匂いの洪水の中に身を置くことになった。

こんなにも世界には匂いがあふれていたのだ!色んな物には匂いがあったのだ!

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