北海道編~あとがき~

北海道編が終了しました~。書いている間、とっても懐かしかったです。これが書きたくてブログを始めたようなもんだしね。

よく友達に「一人で車で信じられない!」と言われますが、私の車の旅のルーツはアメリカにあります。

私は19歳の時、アメリカの大学に留学しました。当時流行っていた留学システムというのに入って、そこからオレゴン州の州立大学に行きました。私はそれまで絵ばっかり描いていたので、もちろん車の免許なんて持っていなくて、運転はしたことありませんでした。でも、アメリカに行ってびっくり、待っていたのは車がないとどこにも行けない事実。大学と、大学のある町以外に、徒歩ではどこにも行けない広さだったんです。まあ、アメリカはどこでもそうですね。

留学システムで知り合った人と付き合い始めたのですが、彼はモンタナの大学に行きました。つまりは遠距離恋愛です。オレゴンの隣がアイダホで、その隣がモンタナ。隣の隣とはいえ、日本列島がすっぽり入るくらいのデカいモンタナ。夏休みや冬休みにはなんとか節約したお金で飛行機のチケットを買って、モンタナの彼のところまで会いに行ったものです。

彼はアメリカに行ってすぐ車を買ったので、その彼の車でよく旅行をしました。モンタナとオレゴンはもちろん往復し、モンタナからラスベガスへ遊びに行こう!とユタ州のソルトレイクシティを通ってラスベガスのあるアリゾナへ。また留学システムのみんなで最初にサマークラスを取ったコロラドの大学へも行き、そこからニューメキシコのアルバカーキへ行ってみたり、帰りにはアイダホの友達の所を経由したり。オレゴンの友達とも、オレゴンからサンフランシスコ、LAと、一番西の海際の国道「I・5」を南下したりもしました。

つまり、西海岸と西側はほとんど車で縦断しています。でも、自分で運転はまだこの頃はしたことはありませんでした。ただ車で長距離走ることの魅力にはどっぷりはまってしまったんですね。大学生で、当時の学生ビザではアルバイトは禁止されていたので(今はどうだかわかりませんが)、みんな親からの仕送りだけをやりくりしての貧乏旅行だったのがまた、楽しかったのかもしれません。

オレゴンから小さい車に4人で乗って「OINGO BOINGO」をガンガンかけながら夜まで走り続けてサンフランシスコの明かりが見えた時の感動!マイナス20度のモンタナの雪道で凍った道路でスリップして雪の塊に突っ込んだ時の恐怖!

中でも、未だに信じられないような車だったのが、モンタナの彼が一番最初に買った車で、どうしてよりによってこの色に?と思うようなまっ茶色のZでした。その茶色いZはこれ以上ないくらいボロボロで、学校の寮から日本食レストラン「将軍」にごはんを食べに行くだけで途中で3回くらい止まって、みんなで押しがけしないと走り出さないような車でした。しかも何ヶ月か乗っている間に助手席の床に大きな穴が空いてしまい(!)走るとそこから風と泥と雪がグワァ~~~~~っ!!!と吹き込んできて窒息&凍死しそうで、罰ゲーム助手席と命名されたほど!あまりにひどいので彼はそのZを売ったのですが、なんと後日!町中でまぎれもなくあのZがそのままのまっ茶色なボディで走っていたのを目撃したのでした。売れたのもすごいけど買った人がいたのもすごい!まさに絶句カーでした。

私はアメリカの後、カナダに一年住んでそこで免許を取りました。それから帰国、しばらく日本にいましたが、その時に付き合い始めた人が今度は一年間、アメリカに留学しました。また遠距離ですね。せっかくなので、LAに住んでいた彼の所に長期で遊びに行った時、その彼が自分も車で旅をしてみたいと言いました。そこで、2人でフロリダまで行ってみよう、と決めて出発したのです。LAのあるカリフォルニアからフロリダ、ほとんど真横に一直線、今度はアメリカ横断です。アホですね。これは、長かった。と言うか、遠かった。実はこの時の自分で運転した経験があるから、日本国内くらいなら、一人でも行けるだろう、という感覚があります。どう考えてもあのLA~フロリダの旅に比べれば、距離も短いし、日本だし言葉も通じるし、大丈夫と思ってしまうんですね。あのフロリダまでの旅も忘れられない濃い~思い出です。

途中のアリゾナ州で巨大なサボテンと一緒に撮った写真、ミシシッピ州で記念に開けた3個めのピアスの穴、州境で「Welcom to Florida」の看板が見えた時の感動、またゆっくり書いていけたらいいなあと思っています。でもずっとずっと前で、記憶が北海道よりずいぶん薄れてるけどね・・・。

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道内走り納め

私は次の日早く起きて、さっさと支度して、昨日説教しようとしてたライダーは丸々無視して号竹を後にした。これまでライダーとは旅の話をしたり、情報を交換し合ったり、とても楽しく過ごしてきた。号竹のライダーは始めて何も話をしなかったライダーだった。彼の旅は果たして楽しいのだろうか。それとも単にライダーハウスで女性と会ったのが初めてだったのか。

彼氏一号

昔、同じような嫌な思いをしたことがある。

私が美大受験で美術予備校に通っていた頃、生まれて初めてできた彼氏に言われた言葉だ。彼は、「女の子なんだから、いつか結婚するんだしそんなに頑張って絵を描かなくてもいいじゃないか。」と言った。私はそれを聞いてこの人はほんとは着ぐるみで中にはおじさんが入っているんじゃないかと思ったくらいびっくりした。同じ年の、当時19歳だった男の子に「女の子なんだから頑張らなくてもいい」と言われるとは全く思ってもいなかった。しかも、私達は一緒に「目指せ芸大!」とかやっていて、つまりは同じ志の仲間だと思っていた。もっと画力が欲しい、もっと良い絵が描けるようになりたい、という気持ちは同じだと思っていた。だから良い大学に入って良い環境でもっと自分を向上させたいと思っていた。なのに、「女の子だから頑張らなくてもいいじゃないか。」とは???じゃあ女だったら努力しないで何も自分を伸ばさずに結婚して家に入れって遠まわしに言ってるってことなのかな・・・?本当に本当にショックを受けた。しかも彼はこうも言った。「芸大に受からなくてもさ、どこでもいいから私大に引っかかってくれればいいよ。」これにはさらにショック!!!「どこでもいいから」?「引っかかってくれれば」???私って一体なに?彼の言う「女の子だったら」、人生どうでもいいってことなのか~?

この会話で私はすっかり恋心も冷めてしまった。初めての彼氏で浮き足立っていたけど、もう一緒にいる意味がわからなくなって、私はすぐに別れたいと言った。浪人生だったし短かったし、なんだかこれでほんとに彼氏?みたいな感じのまま、あっという間に別れてしまった。

このライダーも同じだと思った。自分も旅のおもしろさを知っているはずだ。だからこそ、1人でバイクで走ってライダーハウスに泊まっている。なのに、「女の子はこんな所来たらだめでしょ。」と言うってことは、女性ってだけで「旅」をする平等の権利を与えていないのだ。女性がもし安心して一人旅ができないのなら、危険な男がいるからじゃあないのか。それを女性側にダメ出しをするのはズレていないだろうか。原因を見ないで、文句を言う箇所が間違っていると思う。

ずいぶん話がそれてしまったけど、そんなわけで号竹はせっかく電車というおもしろいハウスだったのにあんまり堪能できなかった。北海道もそろそろ出発しなければならないし、折り返し地点を回って帰り道に足を踏み入れた実感がした。

名残惜しく

もう少しきれいな山を見ていたくて、横に羊蹄山を見ながらのルートで走った。紅葉にはちょっと早くて、そんなに山の色は変わっていない。紅葉したら、きっとすごい綺麗なんだろう。ダートをなるべく選んで走り、函館まで行った。北海道もとうとう最後、函館からまたあのフェリーに乗り、とうとう本州に戻ってきた。さあ、まだまだここからが長い。

八戸の東北自動車道に行くまでの道のりがとても長かった。道がぐにゃぐにゃしていて走りにくい所もあったし、そんなに大きな道路ではないので飛ばせるわけでもない。天気があまり良くなくてどんより灰色に曇っている中をひたすら走り続けた。横に海が見える道路で、海の上の空に夕焼けが広がり始め、どんどんきれいな色に染まっていった。雲が多い方が太陽の光をより多く反射して夕焼けがきれいになる場合が多い。まるで天使でも降りてきそうな光の筋が雲から海に差し込んで、久しぶりに見る素晴らしい夕焼けだった。途中で車を停めて空の写真を何枚か撮った。

東北自動車道一気!

夕焼けがすんでからは写真で止まったりもせず、順調に走って八戸まで行き、東北自動車道に乗った。もうすっかり夜になってしまっていた。私はかなり疲れていたので、まず仮眠を取ることにした。疲れには寝るのが一番だ。

ちょっと寝てすっきりした所で起きて顔を洗い、気合を入れて走り始めた。こうなったらもう一気に東北自動車道を南下しよう!

到着~旅おしまい~

私は結局そのまま朝まで走り続け、横浜のアパートに到着した。行きには迷いそうであんなに困った都内の道のりも、帰りは横浜を目指せば良かったから、簡単だった。いつもの場所に車を停めてアパートの鍵を開け、中に入って時計を見た。6時過ぎだった。さわやかな朝だけど、自分はどろどろに疲れていて、眠い。

それでもまず、青虫文太に電話した。宝来に帰れなかった日、電話で横浜に戻ったら文ちゃんに電話で報告すると約束していたのだ。なんと言っても、おうちに帰るまでが遠足、無事は報告しようよと、文ちゃんが言ってくれていた。

文ちゃんとお母さんに無地帰還の電話をした後、ばったり寝た。10日ぶりの自分のベッド。あああ~な~んて気持ち良い~!自分のベッドがすごい高級品に思えた。でも帰ってきちゃって、ちょっとさみしかった。まだまだ走っていない所がたくさんあって、もっと北海道にいたかった。もっと知らない道を走ってみたかった。もっと色んな人とも会ってみたかった。絶対また行こう。

そう思いながら明日の準備をしなきゃなあとため息をついた。次の日はゲームショウのリハーサルだ。旅から戻ってきて、待っているのは~ああ、現実。

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登別の電車ハウス

さて、きれいなちろりん村でゆっくり休みながら、そろそろ帰り道を考えながらルートを決めることにした。休みはあと3日、戻らなければならないから、そろそろあまり奥地に入らずに走らないと。

次の日はとてもきれいに晴れて、私たちはちろりん村の前で写真を撮った。まだ一日余裕があるので、地図を見て、なるべく細い道細い道へと進んだ。広い国道の景色もいいけど、細い道の味のある景色はすばらしかった。片方が海で、もう片方が小高い丘になっていて、その丘の奥に続く道の手前には真っ赤な鳥居が立っていたり、黄色い野花の咲く中にものすごく古い木造の民家があったり、(洗濯物が干してあって、誰かが住んでいる!)どこもかしこもそのまま絵になる景色ばっかりだった。私はめちゃくちゃよそ見をしながら走った。天気が良くて窓を全開にして入ってくる風がとても気持ち良い。スピッツも耳に気持ち良い。な~んて素敵なんだろうと何度も思った。

電車のライダーハウス

のんきに田舎道をとろとろ走って支笏湖まで来たあたりで日が暮れてきた。さあ、また泊まるライダーハウスを探さないと。地図を見て、とりあえず登別へ向かった。登別は温泉もある。お風呂にも入れる♪

地図で号竹というライダーハウスへ向かった。号竹は周りになんにもない草むらみたいな中にあって、真っ暗だった。私はティナ坊を停めて、中に入った。また前もって車から電話をしておいたので、すぐにおじさんが出迎えてくれた。民宿?みたいな感じだけど、すごく建物の中がごちゃごちゃしていて、不思議な感じだった。

「いらっしゃい。こっちどうぞ。」

通された部屋は、あたり一面に物が飾ってあって、壁が全く見えない部屋だった。木彫りの何かだったり、おみやげものだったり、日本人形だったり、時計だったり、なんでもかんでも壁という壁、棚という棚、すべてにだぁ~~~っと並べてあった。その部屋の中央にこれまた大きな木の机が置いてあり、手前に座布団が置いてあった。私はその座布団に座ったがこのものすごい部屋に、思わず口を開けたままぐるぐる周りを見回した。

おじさんはお茶を淹れて机に置いてくれた。

「さ、お茶どうぞ。」

「ありがとうございます。」座ってお茶を飲みながら、「すごい部屋ですねえ。」と聞いてみた。

「これね、みんなもらい物なんだよ。」

「もらい物ですか。」

「最初一個か二個、自分で物を飾ってたら、みんなが”これも一緒に置いてくれ””これも飾ってくれ”って持ってくるようになって、それでここまでになったんだ。」

「はあ~。」なんか、供養寺みたいだ。

「僕もね、ここに来たってことは縁があるんだと思うから、持って来られた物は全部飾るんだ。絶対捨てないで飾ってるんだよ。」

ますます供養寺だ。

「これだけあると壮観ですね。」

テーブルの向こうには男の子が座っていた。おじさんが彼も今日ライダーハウスに来たライダーだと紹介してくれた。私たちはそこでひとしきりおじさんの話を聞いてお茶を飲んでから、ライダーハウスに移動した。ハウスまではおじさんも一緒に来て案内してくれた。というのも、その供養寺のような部屋のある建物とは別で、外にあったからだ。

外のすぐ脇にあったハウスは電車だった。

「電車?ですか?」

「そう。古くなった車両をね、ゆずってもらったんだ。僕が大好きでね。」わかった。このおじさんは物をもらうのが好きなのだ。「この中だよ。」

中に入ると、本当に電車だった。でもシートははずされていて、とても広く平らになっていた。その床にカーペットが敷いてあって、そこに寝袋を広げて寝られるようになっていた。もちろんカーペットは天井からぶら下がる電球の薄暗い中でも、汚いのがわかる。ま、でも寝袋の中に入るのだから、問題ない。こんな電車のライダーハウスで寝るのもおもしろいし。

「お風呂、沸いてるから入っていいよ。」おじさんが言った。「うちのは温泉だよ。」

「温泉!」すばらしい~!登別温泉だ♪先に来ていたライダーはもうお風呂に入ってお茶を飲んでいたそうなので、私はすぐにお風呂をいただくことにした。

昔懐かしい小さな正方形のタイルのお風呂での~んびり暖まり、ぽかぽかのまま急いで電車に戻った。あったまっているうちに寝てしまおう。

ハウスの中ではライダーが電気を点けて待っていてくれた。「ごめんね~ありがとう。」私は寝袋の中に潜り込んだ。「あ~あったか~い!」でもあの納沙布とかから比べればそんなに寒くはない。だっていくら寝袋とは言え、こんなカーペット一枚の鉄の電車の中で寝られるのだ。

がっかり

2人とも寝袋に入って電気を消した。電車の窓から星が見える。こんな風に星を見ながら寝るのなんて、アメリカでのキャンプ以来だ。するとライダーが私に聞いた。

「ねえ、こういうの平気なの?」

「?平気って?」

「こんなさあ、ライダーハウスに一人で来てさあ。」

「うん?」

「女の子で男と一緒にこんなとこ泊まって」

「???」

「だめじゃん。」

わかった!なんと、私はこのライダーに怒られているのだ!

「だってライダーハウスって雑魚寝が基本でしょ。女の子のライダーももちろんいるし、そういうの踏まえた上でのルールあるライダーハウスなんじゃないの?」

「でも、良くないよ。こんなさ。」

このへんで私は段々頭にきた。せっかくここまでいい旅をしてきたし、今まで会ったライダーもみんな良い人たちだった。良くないとか言うってことは、自分にそういう気持ちがあるから言うんじゃないのか?とも思った。見ず知らずの男に説教される覚えもないし、こんなぼそぼそ”よくないよ”とか言ってる奴、気にしないことにしよう。

すると、タイミングよく私の携帯が鳴った。見ると、北海道に出発する直前の、イタリア時計の新商品発表会の仕事で制作やってた人からだった。

「もしもし~。」

「おう、夜にごめんな。また仕事頼めないかと思ってさ。*日から@日まで空いてる?」

「あ、じゃあ明日事務所にスケジュール確認してみます。家の留守電に事務所から何か入ってるかもしれないんだけど、今日は留守電まだ聞いてないし。」

「え?お前今どこにいるの?」

「登別。」

相手は一瞬絶句した。「え?どこ?」

「だから、の~ぼ~りべつ。温泉入っちゃった~♪」

「はあ~?!」

「だって、仕事の時にこの仕事終わったら北海道に行くって私言ったじゃないですか。」

「え~!お前マジで行ったの?!俺はまた冗談かと思ってたよ・・・。」

「それって冗談とは言わないでしょ~。行くって言って行かないのって嘘つきですよ。ていうか、虚言?」

「いや~・・・・・・で、なに、飛行機?」

「まさか~車ですよ。車で帰るんで、まだ後2~3日かかります。」

「はあああ~~~?!お前車で行ってんの?一人で?」彼は私のこの旅行を聞いて、多分一番びっくりした人だと思う。

「いや、ま、いいや、とにかく気をつけて無事に帰ってきてくれよ!仕事、頼むからな!あ、そうだ、イタリア時計の仕事の請求書、書いて送って。」

「は~い。」

「次頼みたい仕事、ギャラ、#並びでどうかな?」その値段は私の今までの単発仕事のギャラの中で自己最高記録の値段だった。跳ね起きるくらい驚いたが、あんまり驚くと自分の手の内が見えてしまいそうなので、わざと普通に振舞った。「はい、じゃあ#並びでOKです。」でも手ではガッツポーズ!!!やった!

「じゃな、また連絡するわ。しかしお前・・・・・・ま、いいや。お疲れ様。」

「お疲れ様でした。」

彼は最後までびっくりしたまま電話を切った。私は次の仕事の話がうれしくてさっきのライダーなんかすっかり無視して寝袋に潜り込んだ。もちろんライダーも、話は丸聞こえで黙って聞いていたけど、電話で中断されて話の腰も折れたしもう何も言ってこなかった。私は気持ち良くぐうぐう寝た。

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青虫文太後日談

霧の中、ナイタイ高原の牧場でアイスクリームを食べた。牧場の中に観光用のお土産屋さんがあって、アイスを売っていたのだ。北海道のアイスはとーってもおいしい。もう北海道は何でもおいしい。寒いんだけど、アイスを堪能してからティナ坊に戻った。やっぱり走る以外にあんまりやることがない気がした。

なんとはなしに、富良野に戻ることにした。また宝来に泊まって今日は文ちゃんのにんじんを食べよう。そう思った。でも結果的に、宝来に戻ることができなかった。納沙布から富良野まで来た時には、結構長距離を移動できる自信みたいなものができていた。でもナイタイ高原は山で、地図ではわかりにくいけど高低差があったのだ。そして山を登ったり降りたりしながら、ぐるっと回って富良野に行かなければならない。この「ぐるっと回って」がまた、かなり時間がかかった。そして富良野に着く前に、すっかり真っ暗になってしまったのだ。私は途中で宝来に戻るのをあきらめ、そこから目指せる近いライダーハウスを地図で探した。富良野に戻る途中に、二つライダーハウスが並んでいる場所があったので、とにかくそこまで行くことにした。二つ並んでいるのだから、どっちかには泊まれるだろう。

ちろりん村

一本道で木の他には何もない所に二軒、ライダーハウスが並んでいた。私はゆっくり走って両方見てみてから、きれいなログハウス風の方に入った。ハウスの前が広く空いていて、そこにバイクや車を停められるようになっていた。ティナ坊を停めてから中に入ると、おばさんと2人のライダーがいた。

「こんにちわ~どうぞ。」おばさんがやさしく迎えてくれた。なんだか今までのライダーハウスとは感じが違う。ハウスもすっごくきれいで木目が上品なログハウス風、中もキッチンと男子部屋、女子部屋と二つある。これってほんとにライダーハウス?と疑いたくなるようなペンション風だ。部屋の中には合宿所みたいな作り付けの二段ベッドまであった!

「うちは一泊一人1000円よ。」

う~ん安い!あんまりきれいなのでちょっと心配していたのだけど、値段は普通のライダーハウスだった。ヨカッタ!

私はそこでちょっと落ち着いてから、文ちゃんの携帯に電話した。たどり着かなかった時心配しないように、あらかじめ聞いておいたのだ。

「文ちゃん?ごめん。だめだったー日が暮れたよ。」

「なんだよ~。にんじんいっぱい採って待ってたのに~。今どこ?」

「ちろりん村ってとこ。」

「ちろりん村!懐かしい~!俺さ、自転車でそこの隣のやつに泊まったことあるよ。必死で走ってきてちろりん村あるの知らなくて最初に見えたハウスに飛び込んじゃったんだよ。でもそっちの方がすげえボロでしかも変なおやじがやってて、そのおやじとケンカしたんだよね。で次の日の朝明るくなってから見たらすぐ隣にめちゃくちゃきれいなちろりん村があってさ、あ~な~んで俺はほんの後もう少し、がんばって走らなかったんだろう~、ってすげえ後悔したんだよね。」

「でもさ、二軒ハウスが並んでる所なんて滅多にないから、普通一軒あったらそっちに入っちゃうよ。しかも自転車じゃさ、次何キロ先かわかんないし、通り過ぎるのって勇気いるよ。」

「そうなんだけどさ、人生だなあって思ったんだよね。ほんとに後少し我慢して走っていたらきれいな方があったんだなあって。」

「あはは~。」

後日談

実は文ちゃんにはその後がある。野菜を送るから住所を教えて、と言っていた文ちゃんから、本当にダンボール箱いっぱいの野菜が届いたのだ。その時は一人暮らしをしていたので、とってもうれしかった。にんじん、ほうれん草、じゃがいも、たくさんごろごろ入っていてとても重かった。「後で送るから」という人はいるけれど、本当に送ってくれる人は割りと少ない。私は文ちゃんから荷物が届いたときびっくりした。お礼の電話をすると「だって送るって言ったら送るよ~。」と彼は笑って言った。

北海道旅行の次の月に私はモルディブに仕事で行くことが突然決まり、彼はとうとうインドに旅行に行くことにした、と言った。モルディブで仕事をしている間、「今サイババの家に居候してます~」などの相変わらずなメールが何通か来た。文ちゃんは何ヶ月かインドを旅し、私は2年間モルディブで働いた。メールで私も結婚したことや妊娠して夫のロビちゃんと日本に帰国することなんかを近況報告した。

日本に戻ってから、2年半ぶりくらいに会おう、ということになった。文ちゃんは関東圏にいるから、私の実家の近くまで行けるよと言ってくれて、うちから電車で3駅の場所で待ち合わせをした。ロビちゃんはその日バイトが入っていたので、私だけ出かけた。でもお互い2年前にたった一日会っただけである。わかるかな~と思いながら、待ち合わせ場所の広場でベンチに座った。私は道内旅行の頃はショートカットヘアだったけど、この時は長くてド金髪だったし、日に焼けてもいた。

でも、文ちゃんは駅から出てきて迷うことなく私の方にまっすぐ来て言った。

「久しぶり!」

私は文ちゃんがあんまりわからなかった。「ええ~!よくわかったね!久しぶり~!」

「すぐわかったよ。だってこの広場で待ってる人の中で一番日本人らしくないんだもん。」文ちゃんは笑った。

確かに私はその時昔バンクーバーで買ったネパールかどっかの民族衣装風の服を着ていた。それが大きめで妊婦でも着られたから着てただけなんだけど、確かに金髪でそれを着ていてちょっと妙だった。文ちゃんは人なつっこい笑い方が変わらない。

「俺も、そろそろ旅人やめようかと思ってるんだ。」お茶をしながら文ちゃんは言った。「もう何年も旅人やっててずっと住所不定でさ。でもそろそろ旅を形にできたらいいなと思ってるんだ。」

その後、文ちゃんがどういう風に旅を形にしているのか、まだ聞いていない。

そしてそれからまた2年後、ひょんなことから私はミリオネアに出たのだが、オンエアされてからすぐに文ちゃんからメールが来た。

「なんか知ってる人がテレビに出てる???と思ったらヒロコだったんですけどー?!」

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ほうれん草の味噌汁と駅長

私は文ちゃんと夜中まで話しこんだ。後の部屋にいた2人は先に寝てしまった。文ちゃんももちろん次の日仕事があるのだけど、ついつい旅の話で盛り上がってしまった。私も文ちゃんの話を聞いているのはとても楽しかった。

「ところで、ヒロコは今日はどこから出発したの?」文ちゃんが聞いた。

「納沙布から。鈴木食堂って知ってる?あそこ。」

「納沙布!いくら車だからってずいぶん走ったねえ!一日の距離じゃないでしょー!なんでまたそんなに走ったの?!」

「いやあ・・・なんでかな?そう言われても自分でもわからないんだけど、とにかく前へ前へ進んじゃうんだよね。途中で観光名所とか、もっと止まって見てみてもいいと思うんだけど、なんか、走り進んじゃうんだよね。そしたらここまで来ちゃったんだよね。」

「うん、その、前に前に進んじゃうっての、気持ちわかるよ。説明できないけどさ、なんかすごいよくわかるよ。」

人間が、ずっと昔もアフリカからどんどん歩いて移動してきて、世界中に広がっていったのは、とにかく前に進みたいと思う人間と、定住して落ち着きたいと思う人間がいたからだと思う。私は間違いなく後者だ。定住するよりも、違う所に行きたい。そしてそこを見知ったら、また違う所へ、出かけて行きたくなるのだ。理由なんかない。ただ、知らない新しい場所を目指すのが楽しい。こうやって車で楽してても、進んでいる!っていう感覚がすごく楽しいのだ。もちろん、文ちゃんみたいに自転車ですべて自分の力で進んでいたら、充実感はケタ違いだろうけど。

私たちは途中からお酒を飲みながら、すっかり意気投合して、いつかインドに行ってみたいねえなんて話で盛り上がった。また、私が道内に入ってすぐに警察に家出だと思われた話をしたら、文ちゃんは笑って言った。

「それは、ちょうど何かあったんだよ。ほんとに家出とか、捜索願いが出てたりしてさ。」

「な~るほど~!そうだよね、じゃなきゃそんなヒマじゃないよね。」

「あのね、何かやって逃げてる人で、罪悪感とか自殺願望がある人はわりと北に逃げるんだって。でそういうの何にもなくてただ逃げてる人は南に行くんだってさ。」

「へえ~?!ほんと?」

「いや、聞いた話の傾向ね。」

「でもなんとなくわかる気もするよね。」

「そんな道の駅とかで寝てたりしたんだ。」

「そうだね、道内ではライダーハウスがあるから最近は泊まってるけど、四国では毎日道の駅だったよ。ここは今日寝るのにいいかな~とか、あ、ここはやだなとか感覚で決めてさ。大体コンビニで何か食べて。」

「もしかして今日もコンビニだった?」

「うん、道内ではほとんどおでんだけどね。あったかくておいしいから~。」

すると文ちゃんがいきなり立ち上がった。「それじゃ、おいしい、いい食べ物作ってあげるよ。」

「いい食べ物?ってなに?」

「今日畑で採れたほうれん草の味噌汁。」そう言うと文ちゃんは廊下に出た。私も後をついて行くと、廊下の洗面台の横のテーブルに携帯用コンロが置いてあった。文ちゃんは慣れた手つきでほうれん草を洗って切り、なべで煮始めた。

「ここって自炊なの?これ使っていい共同台所なの?」

「違うよ。これは俺のマイコンロ。自転車でいつもこれ持って旅してるんだ。なべ一個あるとラーメンとか色々できるからね。」

そんなことを話しているうちにほうれん草が煮えてきたので、文ちゃんは味噌を入れて味噌汁を完成させてお椀に入れてくれた。私はほうれん草の味噌汁というよりは、ほうれん草の味噌煮みたいなお椀を見て感動した。だって新鮮野菜は久しぶりなのだ。食べてみるとほうれん草がやわらかくてすっごくおいしかった。でもあんまりたっぷり入っているのでほうれん草だけでものすごいお腹いっぱいになった。

「明日は人参を収穫するからさ、また宝来においでよ。そしたら俺が採った人参ごちそうするよ。」

「わかった。じゃあなるべく遠くまで行かないでここに帰ってこられるようにするよ。」

そして私たちはお互い翌日のことを考えて、いい加減寝ることにした。私はすっかり酔っ払っていい気分で自分の部屋に戻るとすぐにぐうぐう寝てしまった。

宝来出発

翌朝起きると、文ちゃん達はもう仕事に出ていて、いなかった。私は荷物をまとめるとおばあさんにあいさつに行った。おばあさんはなんだか奥の広い畳の部屋でちゃぶ台を囲んで座っていた。もう一人、いかにも若そうな男の子が一緒に座っている。私が出かける旨とお礼を言うと、おばあさんは私にじゃあ気をつけて、と言って早々にまた自分の話に戻っていった。なんだか、その若い男の子にお説教してるみたいだったが、その男の子は全く無表情で、でもすごい世の中のすべてにおびえているみたいで、妙な感じだった。ほんとに何かから逃げて北海道まで来た若者をカウンセリングしてるみたいだ、と思った。

ナイタイ高原

そろそろ山も走ってみてもいいかな~と思い、ナイタイ高原に行ってみることにした。ここならそんなに遠くないから夜には宝来に戻れるかもしれない。でも富良野からまっすぐな道がないので、上か下にぐるっと回って行かなければならない。

どうも天気の良くない日が続いていて、この日もどんより曇っていた。曇っているととても肌寒い。山なので上の方に行くにつれ段々霧まで出てくる始末。でも道路の両側に広がる緑はとってもきれいでいかにも高原といった感じだ。この高原の上にある牧場に行ってみることにした。牧場に到着する前から、「若者よ!酪農をやってみないか!」というような看板が目についた。ほんとに、仕事がいっぱいあるように見える。それとも人がいないのか。

駅長さん

牧場に着くと、とても広い駐車場になっていて、そこに車を停めて牧場に降りられるようになっていた。私は車を停めてまず駐車場内にあるトイレに入った。そして車に荷物を取りに行くと、やはり駐車場にいた夫婦が話かけてきた。

「この車**ナンバーだけど、君の車?どこから来たの?」

「はい、私です。横浜からです。」するとおじさんが聞いてきた。見た感じ私の親くらいの年齢だろうか。

「横浜からって、どこからのフェリーに乗ったの?」

「大間です。なるべく陸路で来たかったので、東北自動車道を走って来ました。」

「ええ~!!」夫婦2人揃ってものすごいびっくりされていた。「横浜って、でも車のナンバーは**だけど。」

「あ、それは実家なんです。実家の車で。」

「場所はどこ?何駅?」

「@@線の&&&駅です。ご存知ないと思いますけど。」

「いや、わかりますよ。実は私、新宿駅の駅長なんです。@@線なら新宿から出てますよね。」

今度は私がびっくりする番だった。だって駅長って言ってもただの駅長じゃないのだ。あの巨大駅、新宿の駅長なのだ!それってもしかしてすごい人じゃない?

「今、遅い夏休みを取って妻と2人で旅行に来たんですけどね、あ、もちろん私たちはレンタカーですよ。飛行機で来たから。それにしても、ずっと一人で車で走って来るなんて・・・。私たちにも娘がいますけど、女の子で車で一人旅なんて・・・。」もうおばさんの方は絶句されていた。そりゃ、自分の娘がもし一人で北海道まで車で行きたいなんて言ったら普通の親は反対するのだろう。私の親は結構免疫ができたというか、あきらめているところがあると思う。

「すごいですよ、いやあ~、気をつけて、がんばってね。いやあ~それにしても・・・。」おじさんは最後まで驚きながらがんばってと何回も言ってくれた。私は他のライダー達や文ちゃんともう出会っていたので、自分のやっていることをすごいと思わなくなっていた。だって私は車でほんとに楽に走っているのだ。でも新宿駅の駅長さんなんてなかなか会える機会はなさそうだから、ちょっとうれしかった。旅って出会いだ。

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宝来で語らい

「文ちゃんはじゃあここに住んでずっと何してるの?」

「俺?今、人参。」

「にんじんんん?」

「そ。人参の畑手伝ってるんだ。そこの壁見てみなよ。」

私は言われるままに部屋の壁の外側を見てみた。そこにはマジックで書いた張り紙があってこう書いてあった。

「畑仕事アルバイト大募集! 自給1300円!」

「ほんとだ。」

「俺さ、去年もここで人参手伝ったから、今年は自給も上げてくれたんだ。今ちょうど収穫で、毎日人参機械で掘って収穫してるんだ。」

「へええ~・・・・・・。それで、2年も?」

「ちがうよ~。人参は今が収穫期だからだよ。人参の前はほうれん草だし。米もやったことあるよ。」なるほどなるほど、つまり本当に畑仕事全般なのだ。

「それは・・・たまたま北海道に来てバイト始めてライダーハウスに住んでるの?それともバイク置いてあるの?走って来たとか?」

「あ、俺はバイクじゃないんだ。自転車。」

出た~!噂のチャリンコライダーだ!本当にいたのだ。

「自転車!じゃあチャリンコライダーなんだ!前のライダーハウスでも聞いたよ!自転車でここまで、一体どこから来たの?家はどこ?」

「う~ん。どこからってなんて言ったらいいかなあ~。俺さ、もうずっと旅してるから、前回どこにいて来たかっていうよりも、定住してないんだよね。実家は千葉なんだけどさ。まず最初に自転車で沖縄に行ったわけ。で、沖縄でしばらく仕事していたんだけど、そこからまたず~っと走り始めて、北海道まで来たんだよね。」

「ええええ~!!!」今まで色んな人に会ったけれども、文ちゃんにはかなりびっくりした。

「沖縄にいた時、青森の友達の所に行く用事ができて、でも自分は自転車で沖縄に行ってたから、また自転車乗って行こうと思って、自転車で北上してきたんだ。その時地元の新聞に載ったのが、これ。」文ちゃんは新聞の記事をスクラップしたやつを見せてくれた。そこには確かに文ちゃんと友達らしき人と、自転車が写っていた。「青森にはしばらくいたんだよ。りんご農園を手伝ってさ。手を抜くってのができないから一所懸命りんごやってたらそこのおじさんがすごい気に入ってくれて、ずっとうちでやってくれないかって言ってくれたんだけど、やっぱりまた走り始めちゃったんだよね。でも、そこには通るとき必ず寄るし、去年も収穫手伝いに行ったんだ。」文ちゃんはふと、気がついてCDなんかを並べてあるラックの横に立てかけてある包みを取った。「これ、その沖縄で買った三線。買ったはいいけど、ギターと違って難しいんだ。」

「りんごにほうれん草に人参かあ~。色んな仕事あるもんだよね。」

「そりゃそうだよ、やろうと思ったらなんでもあるんだ。道内なら農業も酪農も漁業もある。あっ、今はちょうどシャケバイだよ。」

「しゃけばい?」

「そのまま、シャケのバイトだよ。」

「シャケって魚の鮭?」

「そうそう、今季節なんだ。シャケバイは短いんだけど、すごい自給がいいから、大人気でさ、募集始めてすぐいっぱいになっちゃうんだ。女の子も仕事あるよ。イクラ洗ったりとかさ。」

「へえ~。イクラ!」募集してすぐ定員いっぱいになるということは、ナビントッシュや文ちゃんみたいに、長期で滞在しているライダーや旅人が多いということなのだろう。季節で場所を移動すれば、いつでも仕事があるってことだ。それにしてもおもしろい~!自分が知らないことってなんてたくさんあるんだろう!

「ねえねえ、一人で自転車で走って日本縦断するのって言うのは簡単だけどすごいよねえ。怖いこととかなかったの?」

「あったさー。一度なんか、橋の下でその日はそこで寝ようと思ってもう支度して、晩飯作ってたんだよ。携帯用コンロでラーメン煮てたの。そしたらおまわりさんが来てさ、火を使ってるの怒られちゃうかなーって思ったら、「ついこの前ここで人が殺されたんだけど、君ここでキャンプするの?大丈夫?」って。思わず「マジですか~~?!」って箸持つ手も震えたよ~!怖いから急いで移動しようと思って慌てて食ってたら、いなくなったと思ってたおまわりさんがまた戻って来てさ、「お前、それ晩飯だろ。これも一緒に食え。」ってコンビニのビニールをくれたんだよ。中見てみたらさ、缶詰とか、いっぱい入ってるの。「残ってもそれならもつから、持って行け。食い終わるまで一緒にいてやるから」って。」

「やさしいねえー!」

「感動したよ。旅してるとさ、そういう変な旅のやつには、人のやさしいのとか意地悪なのとか、すげえよく出るんだよ。うれしかったね。もちろん、その場所は速攻で動いたし。」

「あはははは。」

「それで思ったんだけどさ、渋谷だよ、渋谷。あそこはやばいよ。俺途中で渋谷のスクランブル交差点を渡ったんだよ。まさに自転車で、片方にギターくっつけて片方に三線つけて、すっごい荷物もくくりつけて。服もさ、道内のライダーハウスにいれば普通だけど渋谷じゃあすげえ浮く汚いかっこしてて明らかに渋谷では俺おかしいやつだったんだけどさ。だーれも見ないんだよ、俺のこと。絶対変なんだぜ、でもみんな見ようとしないし見てもこいつ変だ、って思ってもう関心を示さないでまるで見えないものみたいなんだ。あの街は病んでるよ、絶対。あの無視する人たち、怖いよ。」

「うん、それはちょっとわかる気がする。異様なところ、あるよね。」

「俺さ、千葉にいた頃は間違って岩の下に生えちゃった草みたいにヨレヨレだったんだけど、北海道に来たらさ、自分が日を浴びてすくすく伸びている~って実感するんだ。だから、当分旅はやめらんないんだよ。この方が俺らしいんだ。」

それは私にも経験がある。場所が変わるだけでも、人間ずいぶん変われるものだ。

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またもや個性派登場

鈴木食堂を出発してから、海沿いを進んだ。今日は天気もあまりよくなくて空も海もグレイだ。釧路湿原はナビントッシュと一度来ているので通り抜けて、そのまま38号線を進む。浦幌というところから、十勝川に沿う形になり、そのまま内陸へと上ることにした。38号線は帯広の街を横に走り抜けて更に上へ。途中、ガードレールのすぐ横に鹿の親子がいたのが目に飛び込んできた。「わあ~っしか、しか!」一人なのに思わず叫んでしまう。だってすごい近くだったのだ。

昔アメリカに留学していた頃、当時付き合っていた男の子の運転する車で夜走っていて、鹿にぶち当たったことがある。鹿よけの笛を車の両サイドに取り付けていたのだが、長距離を走っている間に片方取れてしまっていたのだ。そしてその取れていた方の側から鹿が道路に入ってきたのだ。アメリカの鹿はもっとずっと大きくて、暗闇からぬっと首を出してライトに浮かび上がった時には2人とも絶叫した!「ぎゃ~~!」ハンドルさばきも空しく鹿の角がガツーン!とサイドミラーに当たった。その勢いで車は大きく右に左に振り回され、やっとの思い出で止まった。もう心臓がバクバクで、彼がミラーが割れていないかとそ~っと触ってみたところ、ミラーは割れているどころか、すっぽり落っこちてなくなっていた。それくらいものすごい衝撃だったのだ。私たちはそ~っとバックしてぽとんと落ちているミラーを見つけて拾うと、一目散に逃げた。大きな鹿に当たるとこちらも大事故になりかねないことを初めて知った瞬間だった。その時の鹿はショックで倒れているかと思ったけれど、バックした時姿はどこにもなかった。無事だといいな、とほんとに思った。でもあの衝撃だと・・・脳しんとうだけですんだかどうかはわからない。怪我してたら・・・ごめんなさい。そんなことを思い出した。野生動物に会えるのは楽しいけど結構危ないことなのだ。

富良野

38号線をず~っと走って行って、トマム山の横を走り、とうとう富良野までやってきた。納沙布岬からたどるとかなりの距離を一日で走ったことになる。もうごはん以外はほとんど休憩なしでひたすら走り続けてしまった。どうしてだか、走って走って先に進むことが楽しくて休憩を取る必要を感じないのだ。でも富良野に来てとうとう日が暮れてしまった。今日はここで泊まることにしよう。鈴木食堂で暖かく寝てから、すっかり車中で寝る気がなくなってしまった。寝袋に入っていても寒いのだ。それにライダーハウスでの情報交換がおもしろくて、楽しみになってきたのだ。地図を見て確認してみると、富良野の街中には何軒かライダーハウスがあった。こんな風にライダーハウスを選べるなんてすごい贅沢な気分だ。まず宝来という所に電話をしてみることにした。

「あの、車なんですけど、今日泊まれますか?」

すると、電話に出たおばあさんっぽい声の人が答えた。「ああ車なの?停める場所あるよ。来ていいよ。」

ラッキー!すぐに私は宝来へ向かった。宝来はきれいに十字の道路が縦横する富良野の街中にあって、近くにコンビニもあった。民宿宝来という看板が出ていた。民宿なんだ。始めに道路脇に停めて中に入り、車を停める場所を聞いた。出入り口の目の前に停めていいということだったので、すぐに駐車してから中に入った。やっぱりいたのはおばあさんだった。

「あんたひとり?」

「はい。」

「ライダーは3階でみんないるけど、あんたは2階の部屋ひとつ貸してあげるから、そこで寝な。1000円でいいから。」

「?」どうして2階なのかな?「ライダーがいる部屋は3階なんですか?そっちはいくらなんですか?」なにか違いがあるのだろうか。

「3階は広い部屋で800円でみんな雑魚寝してるよ。」まあ、ライダーにとっては普通だ。

「私もそっちでかまいませんけど。寝袋ありますし。」

するとおばあさんは真面目な顔をしてずいっと私に一歩近づいて顔を覗き込んで言った。「あんたは2階でひとりで寝な。いいかい、男は信用しちゃなんねえ。」

なるほどー!そこで私は理解した。おばあさんは心配してくれているのだ。それがわかったので、素直に好意に甘えることにした。

「はい、じゃあ2階にします。」そしてその場で1000円を払った。おばあさんはうんうん、と頷いて2階の部屋に案内してくれた。階段を上がってすぐの廊下の突き当たりの部屋で、窓もあるし、布団が何組か置いてあって思ったよりも広い。布団部屋かな?と思った。

「布団使って寝ていいから、ここで寝なさい。」

「え~!布団使っていいんですか?」布団で寝るのも久しぶりだ!

「あ~好きにしていいよ。」おばあさんは言い方は荒いけどやさしい。おばあさんはすぐ自分の部屋に消えてしまい、私は下に行ってティナ坊から荷物を運んだ。運ぶ途中、隣の大部屋で男の子が2人、ギターを弾いているのが見えた。自分の部屋に入って一息ついていると、ギターを弾きながら歌っているのが聞こえる。ライダーは3階にいるって言っていたけど、彼らは誰だろう?なんだかとっても気になったし、突然一人部屋ですごくヒマなので、思い切って隣に行ってみることにした。

文ちゃん

「あの~」私は廊下から顔だけ覗き込んで2人に聞いてみた。「混ざってもいい?」

「おお~俺たちも気になってたよ~。今頃一人でライダーハウスに泊まる女の子なんてさー。」2人とも若そうで、よく日焼けしている。部屋はすごい大きくてだだっ広く、反対側の端っこにもう一人布団を敷いて寝ている男の子がいた。こんな20畳くらいある部屋に3人。

「ここもライダーの部屋なの?」

ギターを弾いていた彼が答えた。「ライダーはライダーだけど、俺たちはもうここにしばらく住んでるんだ。長くいるから、特別にこの部屋を貸してもらってんの。」

「住んでる?!どれくらい?!」

「今2年目。」

「ええええ~!」走って来てそのまま住んじゃう、というか居ついている人がいるんだー!かなりびっくりした。でもそう言われてみれば確かに荷物が壁伝いに並べてある。

「ここの一角は俺のエリアなんだ。俺、青虫文太。」

「あおむしー!?あおむしってあの青虫?それって本名?青虫文太って名前なの?!」

「いんや、ほんとは全然違う名前。」全然違う名前って・・・じゃなんで青虫文太って名乗るんだろう???わけがわからない。道内はナビントッシュといい、青虫文太といい、変な通称が流行ってるのか?

「俺さー、最初北海道に来た時、あんまり野菜がうまくてキャベツばっかりバリバリ生で食べてたから、みんなに青虫って名前を付けられたんだ。」

「じゃあ文太は?」

「それも本名は全然違うんだ。」

「・・・・・・なんじゃそりゃ・・・。」

やっぱりライダーハウスは粒揃いらしい・・・。

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これがさんま丼!

朝、私もライダーも同じくらいに起きてゴソゴソ支度を始めた。支度と言っても荷物をそれぞれの乗り物に積んで片付けるくらいだ。するとちょっとして昨日のおばさんとおじさんが車でやってきた。

「おはよう、昨日はあれから誰か来た?」

「ううん、誰も来なかったんです。」

「そう、じゃどっかで寝たのかな。」おばさん達も食堂を開けて準備を始めた。

「ねえ、ここのさんま丼って知ってる?」私はライダーに聞いてみた。

「おう、俺昨日ここに着いた時、夜ご飯に食べたよ。」

「えっそうなの?おいしかった?」

「うまかったよー!俺さ、旅の間は一日に一回だけうまいもん食っていいって自分に決めてるんだ。でも昨日は朝ランプの近くの市場で豪華に食っちゃって、なのに夜もさんま丼食っちゃったんだよね。だから今日の分がもうないんだ~。でもさ、ここでしか食えないと思ったから食べちゃったんだよ。」

「あー私もそこの市場で朝ごはん食べたよ!わかる!私も毎回良いごはん食べられないからさ、一回豪華に何か食べたら次はコンビニでおでん、とかにしてるよ。」

「だよなあ。ガソリン代なくなったら一番困るしなあ。」

「うん、車はおにぎりじゃ走らないからねえ。」私は考えていた。どうしてもさんま丼を食べたいけど、出発することを考えると今、朝ごはんにさんま丼を食べるしかないのだ。でも朝からまたどんぶりメシというのも・・・いや、べつにかまわないんだけど。

「じゃあ、準備できたし、俺行くわ。」ライダーは食堂に顔を出しておばさんとおじさんに挨拶をすると、メットをかぶって「じゃーねー!」と走って行った。私は全部準備を終えてから、食堂に入った。

「おばさん、さんま丼って今食べられます?」とりあえず朝から可能なのかどうか聞いてみた。

「さんま丼?大丈夫だよ。食べたいの?」

「思いっきり朝ですけどね・・・でも食べたいんですよ~。おいしいってライダーにも聞いて来たし、これももらったんです。」私はフェリーライダーにもらった、この鈴木食堂の50円引き券を出した。

「あ、これ持ってるの。そうだよ、せっかくだから、食べていきなよ。今作ってあげるからさ。これで50円引きになるし。」

よし、私も決めた。朝から豪華だけどさんま丼食べよう!「って、50円引きってもとはいくらなんですか?」

「800円だよ。ところで、あんたはどこから来たの?」

「横浜です。」

「実家も?」

「いえ、実家は**なんです。」

「え~実家も横浜から近いじゃないの。じゃあ@@の近くだね。」

「あ、そうです、ご存知なんですか?」

「前にね、@@から来た女の子がこっちに住みたいって言うから、じゃうちで働けばって言ったら、ほんとに来たんだよ。何年か住み込んで働いて、こっちの男と結婚して今でも北海道に住んでるよ。あんたもさ、何か大変なことあったら、こっちにおいでよ。」おばさんは笑って言った。

道内に入ってから思ったことだが、北海道はよそ者にとてもやさしい。ライダーハウスなんてものがきちんと機能している所もその証だと思うが、みんなよそ者にとても親身にしてくれるのだ。

そんな世間話をしていたら、さんま丼ができあがってやってきた。どんぶりの中を見て私は驚いた。さんまが生なのだ。

「え~!さんま丼ってお刺身なの?!さんまのお刺身なんて初めて見た!」

「そりゃね、うちの父ちゃんが捕ってくるさんまが新鮮だからできるんだよ。そんじょそこらのさんまじゃ生じゃ食べられないさ。刺身は苦手かい?」

「ううん、私何でも刺身が一番おいしいと思ってるよ~!」これは本当だ。私は子供の頃からお刺身が大好物なのだ。「いただきまーす!」

さんま丼は、思ったよりおいしかった。というのも、さんまは小骨が多いからもっとじゃりじゃりすると思ったけど全然そんなことなかったし、生臭いかとも思ったが、全くそんなこともなかった。プリプリの身が厚くて新鮮で、あったかいご飯とよく合ってものすごくおいしかった。私はどんぶりのご飯粒まで全部たいらげた。

「どあーっおいしかったあー!」

「そうでしょう、父ちゃんが魚を追っかけて九州からここまで来たんだから。父ちゃんの魚は最高だよ!」

「九州!おばさん九州の出身なの?!」

「そうだよ。」

「え~!じゃあ慣れるまで最初の何年かはすごい寒かったでしょ~!」

「何言ってんだい、今でも寒いよ!」

「あはは~!」日本最東端の食堂で働くのもいいかもしれない、と思わせるおばさんだ。

お金を払っていよいよ出発するとき、おばさんが「これ持って行きな。」と何かを私に差し出した。言われるまま受け取ると、プラスティックの白い棒に黄色いビニールの三角のペナント風な旗が付いている。旗には白抜きで鈴木食堂、と書いてあった。

「うちに来たライダーはみんなこれ付けて走るんだよ。」

「おばさん、細かいもの色々作ってるねえ!」

「当たり前だよ、商売だからね。宣伝だよ、宣伝。さっきの子にもあげたんだよ。」

「でも車だと外に付けたら飛んでっちゃうから、中でいい?ガラスにくっ付けとけば外から見えるし。」

「あー、いいね。じゃ、ほらこれ。」おばさんは小さい紙切れの束を出した。それは50円引き券だった。「今度はあんたが会ったライダーに配って。」

「わかった。」私はその券の束を財布の中にしまった。「じゃあね、おばさん。泊めてもらって助かりました。ストーブなかったらほんとに寒かったよ。」

「気をつけなよ。」

私はおばさんの声を背に走りだした。ここに来たライダーはみんな、さんま丼を食べ、鈴木食堂の旗を付けて走って行くのだろうか。50円引き券を持ってみんながここに来るのがわかったような気がした。とにかく走っているライダー達には、この券がなんとなく目標みたいな感じになるのだ。どこに行こうかルートをあてもなく考えている時、この券があると行ってみよう、と思う。あてがないからこそ、こんな手書きの券でも目指したくなる。そして実際に鈴木食堂にたどり着いてあのおばさんと話をすると、みんなまた他の人に券を配って「行ってみろよ」と言いたくなるのだ。たった50円の値引きはおばさんにも私たちにもそんなに大差ないはずだ。でもこの券はライダーを鈴木食堂に導くのに十分なのだ。恐るべし、50円引き券!

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納沙布岬とライダー情報

彼はストーブの周りに手袋やら靴下やら、色々なものを干し始めた。私は洗濯しても車の中で干して走る風で乾かしているから問題ない。でもバイクは確かに洗濯物をはたはたひらつかせて走るのは無理だから、大変だろう。思い出したように、彼が言った。

「納沙布岬はもう行った?」

「ううん、とにかくここに来なきゃと思って、どこにも寄ってないよ。」

「俺も。ちょっとさ、見に行かない?」

「えー?今?」

「そうだよ、だってすぐそこだし。」

夜の観光地もちょっとおもしろそうだなと思ったので行くことにした。

「じゃあ、行ってみよっか!」

「よし!」

2人でそのまま勢いよく外に出た。外はかなりな雨と風でもう暴風域だ。風があるから体感温度がすごく寒い。

「ぎゃあ~~~!」人間は寒いとどうも叫んでしまうのは本当だ。

「さ、寒い~~~!!!」「ぐわあ~~~!!!」「ひゃあ~~っ」バカみたいに口々に叫びながら、海が見える場所まで全速力で走った。あたりは真っ暗で、もちろん明るいコンビニなんてなくて人も自分たち以外に誰もいない。ちょっと走るとすぐ納沙布岬に出た。そこには観光用に看板があって、「日本最東端」と書いてある。

「おお~!日本最東端だー!ダメだー寒いー!」2人で笑いながら叫んだ。「帰ろう!」

ダッシュでプレハブに戻り中に入ってドアを閉めた。風と雨の音がちょっと遮断されただけですごく静かに感じた。ストーブに駆け寄って手をこすり合わせた。まだ体がブルブルしている。

「いやあ、寒かったねえ。」

「うん、でも見れたよ、岬。」

「あーおもしろかった。」寝袋にこたつみたいに足を入れるとほっとひと心地ついた。

「フェリーはどこから乗ってきたの?」彼が聞いた。

「私は、なるべく陸路で来たかったから、青森まで来て、大間フェリーに乗ったよ。」

「おお~俺も!でもさ、他の道は平気なんだけど都内がわかんなくてさ、首都高抜けるのに迷っちゃって6時間もかかったんだよ。」

「ええ~!」私はぶったまげた。6時間走ったら相当の距離を進むことができる。それを迷うことに費やしてしまったなんて!「でも確かに私も首都高とかほんとにダメで、東北自動車道に乗るまで友達にナビしてもらったんだよね。」

「いいよなあ~車は。そういうところも余裕だよなあ。バイクはさ、孤独なんだよ~。走ってる間は誰ともしゃべらないでしょ。だから、ライダーハウスに入ってから、ほんとはみんなすごい話したいんだけどまだ最初は照れとかがあって、でもそのうち誰かが耐え切れなくなって地図とか出して「どのルートで来たの?」とかって始まるともうみんなわあ~~ってしゃべり始めるんだよ。」

「そうだろうね。昼間ずっと一人で黙々と走ってるんだもんね。」

「うん、だから夜ライダーハウスでしゃべるの結構楽しみなんだよね。今日も一人じゃなくて良かったよ。」

「あ、そうか、私が来なかったらここでも一人だったんだね。じゃあ昨日ランプでどんな話してたの?」

「昨日は面白かったよ~。」彼はすっごい笑い始めた。「原チャリライダーがいてさ。」

「げ、原チャリ?!」

「そうだぜ~原付でず~っとペケペケ走ってきたんだよ。でも、一定のスピードしか出ないから、ゆっくりのんびり走って来て日が暮れたら止まる、みたいな旅で、俺ちょっとうらやましかったよ。そんな旅もいいなあって。やっぱりつい走っちゃうからさ。」

「でもさ、スピード違反とかで捕まらない?そんなに飛ばしてるわけじゃないの?私なんて函館着いた途端に切られちゃったよ。道内ってキビシイんだね。」

「ちがうよ~。」彼は笑って言った。「あそこはさ、みんなフェリー降りてやっと道内に入った~!って喜んでつい飛ばしやすいんだよね。で警察もわかってて、みんなあそこで待ってるんだよ。で、次々捕まるわけ。第一まだ街中で一本道とかじゃないから、そんなにスピードオーバーしてなかったでしょ?目立ってたわけじゃなくて待ち伏せされてるんだ。だからあそこはいつもにも増して気をつけてゆっくり走らないとダメなんだよ。」

「えーー!そうだったの?!」早く言ってよ、と突っ込みたい。これを北海道に入る前に聞きたかったー!がっくり。

「ま、洗礼だと思ってさ。みーんな切られてるから。」

「なるほどねえ~・・・。」

「ライダーハウスでそういう情報も一緒に聞くといいよ。結構役に立つよ。でもさ、話戻るけど原付よりもっとすごいのもいたぜ。」

「な、なに?」

「ママチャリライダー。」

「ぎゃははー!それはもうライダーじゃなくなってるんじゃないの?しかもスポーツ用とかじゃなくてママチャリなんだ。」

「うん、俺が会ったのは、すっげえ若いやつでさ、高校生くらいかな、朝いきなりチャリンコ乗って、そのままずっと走り続けて来ちゃったんだって。」

「そうなるともう・・・なんか違う境地だね。」

「うん、すげえよ。バイクはさ、孤独だけど、チャリンコライダーは根性だよ。全部自分だもんな。」

話を聞いて私は自分がどれだけ楽に走っているか思い知った。雨も当たらない、ヒーターも入れられる、荷物も重い思いもせず持てるしどこでも寝られる。何と言っても運転してる間はシートに座ってるだけなのだ。目とか肩とかは確かに疲れるけど、この広大な景色の北海道の中をチャリンコでひたすら走り続けるというのはどんな気持ちなんだろう・・・。便利にしたくて荷物を多く持てば自分が重い。少なければ楽だけど不便がいっぱいだ。それにちょっとした坂も車じゃ全く感じないけどかなり辛いだろう。一体一日でどれくらい進めるのかな・・・。

「いやあ、色んな人がいるねえ。」

「そうだよ、ほんとおもしろいよ。」

「ねえ、今まで走った中でどこが一番良かった?」私は大体みんなにこの質問をしていた。

「俺?やっぱり屋久島だな。あそこは全然違っててすごかったよ。あんまりバイクで走れる環境じゃないから、島の中では走ったって感じじゃないけど、感動したなあ~。」

また屋久島だ、と思った。フェリーライダーも屋久島が一番だと言っていた。そんなにいい所なんだ・・・。むくむくと、ものすごく行ってみたくなってきた。

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ランプから鈴木食堂へ

雑魚寝した後目が覚めると、久しぶりに平らに寝たせいかとてもすっきりしていた。起きて支度をしているとみんなも起きてきてわさわさし始めた。同じ部屋で寝た4人組が近所の市場で朝ごはんを食べるというので、一緒に行ってみることにした。私はそのまま出発できるように全部荷物を積んで、ティナ坊で市場へ向かう。市場はランプからすぐだった。

中には所狭しと魚介類が並べられていて、どれもすごく安い!なかでも海鮮丼というメニューは、始めに丼めしをもらい、それを持ってあちこちまわって好きな具を乗っけていくというものだった。みんなもちろんこの海鮮丼にして、それぞれ具を求めて散らばった。私も海老やらイクラやら、大好きな生ものをこれでもかと乗っけてもらった。みんなで同じテーブルで食べたが、周りを見回してみても、ライダーばっかりが食べている。ライダーは一目見てわかる。しかし、イクラがおいしい~!なんて豪華な朝ごはんだー!

羅臼

みんなと写真を撮って別れた後、私は羅臼に向かうことにした。網走から近いし、羅臼には地図で見ても温泉のマークがいっぱい書いてある。温泉がたくさんあるらしいし、聞いた話では川の途中が温泉になっていて、そのまま入れるらしいのだ。そんなあったかい川にはぜひ入ってみたい。

334号線を知床半島に向かって走って行くと羅臼の手前にオシンコシンの滝というのがある。ここに向かっていたのだが、なんだかどんどん雨がひどくなってきた。寒いし暗いし走りにくい。運転していてもやっぱり雨で疲れが倍増するのだ。オシンコシンの滝のふもとというパーキングに着いたけど、観光客の車が結構いてちょっと考えてしまった。混んでいるけど雨だし、滝まではここに車を停めて歩いて行かなければならない。結構濡れるだろうし、体力も使いそう・・・。ちょっと車の中で考えた。よし、ここはあきらめよう!そしてもっと前に進もう。地図を見て、ここから根室半島に向かうことにした。根室半島にはフェリーライダーの言ってた鈴木食堂がある。今日は鈴木食堂まで行って、そこで泊まろう。

目指せ鈴木食堂

ティナ坊をUターンさせて、根室へ向けて244号線へ。海沿いを下に下りて行く。海沿いには漁業関係の建物ばかりで、あちこちに「若者歓迎アルバイト募集中」という手書きの看板が立っている。猟師のバイトなのかなあ・・・なんて思いながら雨の中を走る。知床半島から根室半島は地図の上で見ると近くに見えてすぐに着くかと思っていたが、なかなか走り進むことができなかった。雨もあってそんなにスピードも出せないし、とにかくゆっくり進むしかない。でも天気のせいもあって暗くなるのが早くて段々心細くなってきた。どうしよう、あのライダーはたどり着きさえすれば、ライダーハウスがあるから泊まれると言っていたけど、もしやってなかったら疲れて半島の先になんか到着して寝られる場所があるかなあ・・・。考えていても仕方ないので、電話してみることにした。

「もしもし・・・」

「はい、鈴木です。」おばさんの声だ。

「あ、あのライダーハウスやってるって聞いたんですけど、今日泊まれますか?」

「今どこ?」

「え?今ですか?えっと、44号線を走ってるんですけど。」

「あのね、もう店閉める時間だから、あたしは家に帰るんだけど、それくらい近くに来てるんなら待っててあげるから早く来な。」

「ええ~!帰っちゃうんですか?そんな、あ、車なんですけど停められますか?」

「あ、車なの?ああ、停められるよ。だから待っててあげるから早くおいで。」

ぎゃ~~!私は俄然焦った。それにしても電話してよかったのだ。電話していなかったらおばさんはさっさと家に帰ってしまったにちがいない。危なかった。ライダーハウスといえども予約って大事なのね~!私は必死に走り始めた。あたりはもう真っ暗だ。

鈴木食堂

ずいぶん走ってやっと半島の突端に出た。結構さみしい所だ。一体鈴木食堂ってどこ?私はもう一度電話した。

「ああ、着いた?今ちょうどもう一人来たとこだよ。そこから右に曲がってすぐだから。」おばさんに教えてもらったとおり曲がると鈴木食堂の看板があった!戸口からおばさんが出てきた。

「ああ、着いたね。こっちに停めな。」食堂の隣に小さいプレハブがあって、そこがライダーハウスらしかった。バイクが一台停めてあって、私はその横にティナ坊を停めた。プレハブから男の子が顔を出した。

「じゃあ、あたしたちはこれで帰るからね。後、さっき電話かかってきてもう一人こっちに向かってるから、その子が来たら入れてあげてよ。朝また戻ってくるから。後、ストーブ点けてあるから、気をつけてよ。」

「え?ストーブ?そんなに寒いの?」

「いらないなら、いいんだよ、消していこうか?」おばさんは笑って言った。

「ややや、点けてってください~。」

「ははは。じゃあね、明日の朝来るから、誰か来たら入れてあげるんだよ。」

「はーい。」私は寝袋と荷物を持ってプレハブの中に入った。外は風が強くて雨も降ってて確かに寒い。とても9月なんて思えない。中はもうストーブのおかげで暖まっていて、私はため息が出た。荷物を放り出してとりあえずその場に座りこんだ。

「はあ~~~着いた~~~よかったあ~。」

するとライダーも「俺も今着いたんだ~。」と人なつっこく言った。「もう~雨だとやだよ~。いいなあ車は雨でも平気で。」

「そうだよねえ~バイクは雨大変だよねえ~・・・。」

「雨もそうだけど、ずっとひとりってのがつまんないんだよね。話す相手もいないし。車は音楽とかラジオとか聞けるじゃん。」

「それはあるね。私CDで歌いっぱなしだよ。」

「俺もさあ、ずっと頭の中で歌歌ってたんだけど、もうダメだ。知ってる歌全部歌いきってレパートリーがつきた。」

「あはは~。」話をしながら私は寝袋を広げて支度を始めた。話した感じでは彼は結構若そうだ。

「今日はどういうルートで走ってきたの?」

「あのねえ、網走のランプってライダーハウスから出発して羅臼に行って、こっちに降りてきたの。」

「えっランプ!俺も昨日ランプに泊まったよ!」

「えっ!?いた?」あ、そうか、あっちのライダーが雑魚寝してた方にいたんだ。「あ~私民宿みたいな、もう一軒のおじさんのいる方に泊まったんだ。」

「そっか、じゃあほとんど同じルートで来たんだな。あれ?もしかして、あの黒い車Uターンしたよね?俺見覚えがあるかも。」

「え・・・。」そう言われて私も思い出した。今日Uターンした時に黒い革ジャンを着たライダーとすれ違ったっけ。(ていうかライダーはみんな黒い皮系ばっかりだけど)、あれだ。お互い途中でも会っていたのだ。

「あれかー!」

「あれだー!」

「ね、ところでさ、すごい申し訳ないんだけど」彼が突然言った。「手袋干してもいい?」

「もちろんいいけど、なんで?」

「だってくさいんだよ。ずっとはめてて今日は濡れたから。」

「はははー!いいって、干しなよー!私こんなに寒いと鼻ダメで全然においわかんないから。」

「じゃあ靴下も干していいかな。」お互いゲラゲラ笑った。

「ストーブあってよかったねええ~!」

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